BL 途中

ようやく目の前の青葉闇の明るさが時計の針のごとく中心を捉え、やがて一日の夏の始まりを知らせる鐘が、空気からじんわりと体温へ伝わり、貼り巡られた縄へ暖を灯す。
心の感傷と腕の跡に神経を実感させられ、そこだけ淋しく夜の冷たさをまとっていたが、しかし、彼に刺された私の純粋で透明の肌には、木洩れ日は木々に挨拶して回る蜂の鳴き声を真っ直ぐ貫くように痛く、蜂に荒れたそれは怯えていた。

私は蜜に溺れていた。彼は蜜の中を泳がせてくれた。その中は幸福と快楽に満ち、液体の溢れる瓶の外に雨が降っていようとも、透き通ってそこに見える雨粒を断ってくれていた。

彼の毎日当たり前のように食事できる生命の恵みのように思わせる多くの褒める言葉は、私が自身を花のように美しいのであると勇気付けるには十分であった。私は彼の鼻で在り続けるためにはどれほど高く残酷な壁であっても乗り越えてみせる。壁を越え、支柱をつたい、彼がに与えてくれるように私も蜜を捧げようと開花に専念していた。

私が巣蜜のように好んでいたそれは、思い返そうとなれば、私の心境を見事に鏡映していた。見慣れた彼の部屋は爆弾でも落とされたかのように荒れ果て、置かれた物々は秘境の幽霊の住処のようであった。
回想している中、彼の部屋を私の精神が歩むと、鏡のような床へ着く足は私の心へ重く圧し掛かる。

悲しいではないか。努力してなんとも楽しかったはずと言い聞かせた彼との思い出、それを頭の中へ呼び起こせば呼び起こすほど、彼の部屋に散らばった突起物へぶつかる。

「--何故」
読んで字のごとく理由を考えることもなく、内心にその言葉を響かせる。

その答えはすぐには返ってこない。もう帰ってこないはずの、幸せ多き日常に彼はおらず、私一人取り残されたという事実が残忍にもそこに置かれているだけ。この先の人生と悲しみの連続を独り歩きしなくてはならない。私の街を歩く瞳に名残惜しい一組らがあろうとも、悲しみの淵から舞い戻るべく理由がわからずとも。

私は特段家庭環境の悪い生まれというわけではなかったが、会話の少ない静かな家から愛を見つけることは難しく、愛の実感を覚えぬまま、多くの今日を暮らしていた。

無償に愛してくれ、弱いところを見せても接し方を変えず、常に優しく微笑み、時に必要であれば声を上げる。これこそ親のありがたみと言わんばかりの経験をしてきたはずだったが、私が彼と出会ったとき、時と乾きを癒してくれるかのようなの瞬きに初めて愛を覚えたような衝撃が走ったことは、どうにも心地が良く、それまでの霊柩車以外に居場所がないような思いを忘れてしまった。